Taisei Yoshida

松本文字塾 第四期 文字塾展の感想

松本文字塾展

こんにちは。タイプデザイナーの吉田大成です。先週松本文字塾の展示に行ってきたので、その感想を書いてみます!

松本文字塾とは

初めて文字塾のことを知った方は、毛筆や硬筆を習う塾かと思うかもしれません。

文字塾とは、一年をかけて自分の仮名(平仮名、片仮名)をつくり、フォント化して、その成果を展示会で発表するという塾です。(公式HPより引用)

基本的に明朝体の仮名を作る方がほとんどですが、ゴシック体や楷書体などを作る方もいらっしゃいます。

展示会の様子

こちらは展示会の様子。今年は14名の方が参加されていました。画面左の長机には文字塾が始まる4月から翌年3月までの制作過程を記録したファイルが展示されていて、こちらも見ることができます。(写真撮影はできないので、会場でのみ閲覧可能です。)

そして、長野県松本市で開催されているので、「松本」文字塾となっています。以前は東京や大阪、京都でも開催されていましたが、現在は松本市のみでの開催となっています。

フォントのデザイナーを目指す方にはもちろん、グラフィックデザイナー、エンジニアや学校の先生など、さまざまな方々が受講されます。

月に1回マツモトアートセンターという芸大・美大予備校で、計12回の授業が行われます。

そして何よりすごいのが、タイプデザイナーの鳥海修さんが文字塾の塾長を担当されている点です。

鳥海修さん

鳥海さんはフォント業界に興味を持った人なら知らない人はいないくらいの偉人、巨匠、神、なのですが、その方から1対1で指導を受けることができるのです。

こんな機会は他にないので(本当にない)、プロのタイプデザイナーも受講するほどです。現場で働くタイプデザイナーの制作過程を間近で見られるのも、魅力のひとつと言ってよいと思います。

元塾生視点の文字塾展

実は私も以前文字塾に通ったことがあります。当時はまだ大学3年生で、2016年の第五期と2017年の第六期の2年間通っていました。こちらは私が初めて文字塾で制作した書体「はくれい」です。

はくれい

今年の文字塾展が2026年なので、ちょうど10年が過ぎたということになりますね。

さて、元文字塾生として見る文字塾は一層面白く、通っていた当時を思い出しながら楽しむことができます。基本的に仮名書体の制作なので、書体名が平仮名3–4文字であったり(私もそうですね)、職業に由来するコンセプトの書体を作る方がいたり、仮名だけの制作にとどまらず漢字もセットの超大作を作る方がいたり…。ああ懐かしい。これこそ文字塾だよなあと温かい気持ちになりながら、毎年新しい書体との出会いを楽しみにしています。

展示会場で無料で配布されている制作書体と組見本を収録した冊子には、作者本人のプロフィールとコンセプト説明、そして鳥海塾長による講評文が書かれています。

冊子の表紙

塾生のほとんどは社会人で、仕事をしながら1年間という限られた期間で書体を完成させなければいけません。書体を初めて作る方も少なくなく、慣れないアナログ道具やフォント制作のアプリを使いながら制作することになります。

塾生本人のコメントや書体の細部から、心残りや歯痒さのようなものが感じられることもあり、「難しいよな…分かるぞ…」と勝手に共感したりもします。

私が通っていたときの思い出もたくさんありますが、それはまたどこかで書きたいと思います。

書体の感想

本当は全ての書体の感想を書きたいところですが、14作品もあるので、個人的に気になった書体を少しだけピックアップしてみます。

「まきこ」相川ひかるさん

相川ひかるさん

なんと相川さんは私が通っていた第五期文字塾の同期の方です。現在はタイププロジェクトというフォントベンダー所属のタイプデザイナーとして働かれていて、今回9年ぶりに文字塾に参加されたとのことです。

そして私にとっては武蔵野美術大学 基礎デザイン学科の先輩でもあるのです。

今年の文字塾展の告知に相川さんの名前があったので「これは行くしかない」と思いました。展示当日も懇親会でもたくさんお話しできて嬉しかったです…!

9年前の相川さんは「レスラー明朝」という見出し用の明朝体を制作されていました。当時武蔵美の4年生だった相川さんは、文字塾で制作した明朝体を卒業制作として展示されていました。書体はもちろんですが、この展示が本ッ当にかっこよすぎて衝撃を受けたのを今でも覚えています。

レスラー明朝の展示

か、かっこよすぎるだろ…。壁一面を使って書体の魅力を表現されていて最高ですね。当時私も卒業制作で書体を制作する予定だったので、「来年はこのクオリティを目指さなければ…」と身が引き締まりました。

数回受講されている塾生の方の作品は、前回作った書体と合わせて味わえるのも文字塾の楽しみ方のひとつですね。

さて、そんな相川さんの今年の作品は「まきこ」という名前の明朝体です。前回は見出し用の明朝体でしたが、今回は本文用の明朝体を制作されていました。ノンフィクション作家の井田真木子さんの文章を組むために制作したそうです。

まきこ ポスター

「まきこ」は字面が小さく、フトコロに緩急があり、筆脈がつながっている、あえて分類するならクラシックなスタイルの明朝体です。

井田真木子さんの文章にとてもマッチした、細身ながらも芯の強い書体だと思いました。

まず目を引くのが「あ・の・ぬ・め」のような大きいループの形です。

もともと曲線の多い平仮名にとって、このような大きな曲線の形状は書体の空気感を決める大事な要素だと思っています。そういった視点で観察すると、この書体から受ける印象は「重く、厳しく、暗い」といったものになるでしょうか。決して明るく軽やかでポップ、といった印象にはならないと思います。

「の・も」が分かりやすいですが、ツルッとした優しい曲線ではなく、どこか角が残ったような、生っぽい人間の手の動きを感じます。

まきこ 字形

平仮名が持つ形状は非常に複雑で定型化しづらいのですが、本文用としてはなかなか特徴的な字形を採用した「まきこ」は、こうした要素をバランスよく取り入れてまとめられていると思いました。

展示されている制作ファイルを読むと、「まきこ」は2017年ごろから着手されていて、制作のプロセスだけでなく、そのとき感じたこと、たとえば思ったように形が書けない悔しさや葛藤も記されていました。

この書体の裏にはこんな背景があったんだなと胸が熱くなり、読んでいるうちにうっかり涙が浮かびそうになったのですが、さすがに制作ファイルを見ながら泣くわけにはいかなかったので我慢しました。かなり読み応えがあるので、もし巡回展があった際にはぜひ読んでみてください。

「らいちょう」竹内栞奈さん

竹内栞奈さん

今回の文字塾で個人的に一番お気に入りだったのが「らいちょう」です。こちらは立山連峰の氷河地形をコンセプトに制作された書体で、筆ペンで太くゆっくりと書くことによって生まれるやわらかさやエネルギーを通して、立山連峰の景色を表現されています。書体名のらいちょうは、実際に立山で出会ったライチョウが由来だそうです。

制作者の竹内さんは、看板の製作会社で働かれていて、そう言われると山の看板で見てみたい書体だと思いました。

らいちょう ポスター

個人的に、この書体は毛筆ではなく筆ペンで書かれているところがポイントだと思っています。太い書体ではあるものの、どこか軽さを感じるのは、起筆のすっきりした形やツルッとした払いのかたちが影響していると思いました。そしてその形は、弾力のある筆ペンによって生まれているような気がします。

らいちょう 字形

制作ファイルを読むと、初期から書体の方向性は定まっていて、いい形が生まれるまでひたすら筆ペンで試行錯誤されていました。なんとこの書体が完成する頃には5本目に突入していたそうです。

「おゝすか」中谷可惟さん

中谷可惟さん

欧文書体「Ogg」のように流麗で明るい組版を和文書体でも再現することを「書体翻訳」という切り口で制作されています。

おゝすか ポスター
おゝすか 字形

記憶を全消ししてもう一度通いたいです。

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